アリの行列はなぜ渋滞しにくい?流れを保つ仕組みを数式で解説

細い金属の上に集まる複数のアリ。研究実験とは別の参考写真。 生命科学

アリの行列は、なぜ混み合っても流れ続けるのでしょうか。地面を横切る小さな列を見ていると、向かいから来た仲間と出会いながら、集団全体は少しずつ先へ進んでいきます。信号機も交通整理の係も見当たりません。それなのに、私たちの道路より滑らかに見える瞬間があります。

この不思議を理解する鍵は、「一匹が速く歩けるか」と「道全体で何匹を運べるか」を分けることです。この記事では研究で確かめられた現象と、意味を理解するための簡単な計算を区別して、アリの渋滞と交通流の関係を読み解きます。

アリの渋滞を調べた実験では何が分かった?

2019年に発表された研究では、アルゼンチンアリの巣と餌場を橋でつなぎ、橋の幅や集団の大きさを変えて混雑を調べました。170回の実験で、個体数、通過する数、移動速度などを記録しています。集団の大きさは400匹から25,600匹まで変えられました。[1]

その結果、密度が小さい範囲では、アリが増えるほど単位時間に通過する数も増えました。さらに混み合うと、通過する数はおおむね頭打ちになります。しかし、観測した範囲では、車の渋滞で見られるような流量の落ち込みは確認されませんでした。橋の面積の約80%をアリが占める状況でも、流れが保たれたのです。[1]

ただし、これは特定の種と実験条件で得られた結果です。「すべてのアリが、どんな通路でも絶対に詰まらない」と読み替えることはできません。道を完全にふさいだ場合まで通れるという意味でもありません。まずは、混雑が増えても集団の輸送量を保つ仕組みがある、と捉えるのが適切です。

アリの体と脚が見える接写。実験個体とは別の参考写真。
アリの歩行を考えるための参考写真。論文の実験対象を撮影したものではありません。Photo: Prince Patel / Unsplash

速さ・密度・流量を分けると、行列が見えてくる

ここからは、観測された流れを理解するための数学です。まず、一本道の同じ方向に進む集団を考えます。使う量は三つだけです。

  • 密度 ρ:道の長さ1mあたりに何匹いるか。単位は「匹/m」。
  • 平均速度 v:集団が平均して1秒に何m進むか。単位は「m/s」。
  • 流量 q:道のある場所を1秒間に何匹が通過するか。単位は「匹/s」。

道の幅を固定し、流れが平均的に安定しているとき、これらの関係は次のように書けます。

q = ρ × v

たとえば1mに20匹がいて、平均して毎秒0.03m進むなら、流量は20×0.03=0.6匹/sです。1分あたりに直すと36匹になります。これは説明のための仮の数値で、研究で測定された値ではありません。

式の単位も確かめてみましょう。「匹/m」に「m/s」を掛けると、mが消えて「匹/s」になります。この確認は、複雑な数式に見える説明の誤りを見つける助けにもなります。cmとm、秒と時間が混ざっていたら、そのまま掛け算してはいけません。

なお、幅のある面の上で密度を「匹/m²」と定義する場合は、同じ式の答えが「幅1mあたりの流量」になります。橋全体の流量を求めるには幅も考慮します。また、往復するアリを数えるときは、両方向の通過数の合計と、差し引きの流れを区別する必要があります。

数が倍なら、運べる量も倍になる?

密度だけを20匹/mから40匹/mへ倍にして、速度を同じに保てるとしましょう。流量は1.2匹/s、1分あたり72匹に増えます。ところが、混雑のため速度が半分の0.015m/sになるなら、流量は0.6匹/sのままです。

この場合、一匹ずつは遅くなっています。それでも、同じ時間に通過する数は減っていません。「速度が下がる」と「輸送量が下がる」は同じ意味ではないのです。アリの行列を眺めるときにも、歩く速さだけでは混雑への強さは判断できません。

車の渋滞と比べるための、簡単なモデル

交通流を説明する入門的なモデルの一つでは、密度が増えるほど速度が直線的に下がる、と仮定します。自由に動けるときの速度をv₀、完全に詰まる密度をρⱼとすると、式は次の形です。

v = v₀(1 − ρ / ρⱼ)

ρがゼロに近ければ速度はv₀に近く、ρがρⱼに達すると速度はゼロになります。したがって、この式を「密度が増えても完全には停止しないことを示す」と説明するのは誤りです。式に最大密度を代入すれば、その矛盾はすぐに分かります。

流量の式に代入すると、q=ρv₀(1−ρ/ρⱼ)です。最初は数が増える効果で流量が上がりますが、やがて速度の低下が勝ち、最後はゼロへ向かいます。ただし、これは単純化したモデルです。現実の道路では、合流、車間距離、反応の遅れなどが関わり、一つの式ですべてを説明できるわけではありません。

アリの流れを「頭打ち」として理解する

一方、低密度では増え、高密度では頭打ちになる流れを理解したいなら、説明用にq=min(ρv₀, Q)というモデルを考えられます。minは二つの値の小さい方を選ぶ記号で、Qは道が処理できる上限の流量です。これは本記事の理解用モデルであり、論文の実測値や当てはめ式を再現したものではありません。

この仮定では、ρv₀がQより小さい間は流量が増えます。上限に達した後はq=Qです。平均速度はv=Q/ρになるため、混雑して一匹の速度が下がっても、集団の輸送量は保てます。上限まで速く走り続けることと、流れを維持することを分けて考えられるのが、このモデルの利点です。

混雑と流量の比較 / Density and flow
数値のグラフではなく、関係を整理した模式表です。
見方 / View空いている / Sparse混み合う / Crowded
直線的な速度低下モデル / Linear speed model密度の増加で流量が増える
Flow rises
ピークの後に流量が減る
Flow falls after a peak
流量が頭打ちになる説明用モデル / Capped-flow model密度の増加で流量が増える
Flow rises
上限の流量を保つ
Flow plateaus

どちらのモデルも、最初から自然の正解として与えられるものではありません。実際の密度と通過数を測り、どんな関係が現れるかを確かめて初めて、使える範囲が分かります。きれいな式が書けることと、その式が観測を説明することは別の段階です。

向き合う二匹のアリ。アリ同士の出会いを考えるための参考写真。
仲間との出会いは、集団の流れを考える小さな単位です。研究実験とは別の参考写真。Photo: Maksim Shutov / Unsplash

アリは、周囲に合わせて行動を変える

2019年の研究では、中程度の密度で速度を上げること、高密度では時間のかかる相互作用を避けること、混みすぎた道への進入を抑えることが示されました。単に「全員が同じ速さで歩く」だけではなく、周囲の状態に合わせた調整が、全体の流れを支えていたのです。[1]

別の角度からこの問題に取り組んだのが、2015年の理論研究です。アリを、自分で進む力を持つ粒子として表し、前の個体との距離に応じて進む力を調節するモデルを考えました。この仕組みによって、一方向のアリの行列で知られていた集団速度や個体間隔の特徴を説明しています。[2]

ここで面白いのは、「全体の地図を知る指揮官」を置かなくても、近くの相手との関係から集団の性質を説明できることです。ただし、モデルで現象を説明できたからといって、アリの神経系がその数式を計算していると証明されたわけではありません。数理モデルは、仕組みの候補を検証するための道具です。

もう一本の道へ分かれる、という解決法もある

混雑への対応は、一本道の中だけに限りません。2004年の研究では、アリに二つの経路を用意して交通を調べています。空いているときには一方の道が主に使われましたが、混雑が強くなると、輸送量が損なわれる前にもう一方の経路にも流れが生まれました。[3]

道を見つけた仲間が残すフェロモンは、後続を同じ道へ引きつけます。それだけなら、一つの道へ集まり続けそうです。しかし、この研究では、混雑時の個体間の抑制的な相互作用も含むモデルによって、経路の利用が分かれる現象を説明しました。集める働きと分散させる働きの釣り合いが関わっています。[3]

説明用に、一本の道が毎分60匹を通せると考えてみましょう。毎分90匹が来ると、同じ道へ入り続ける限り、待つ個体が毎分30匹ずつ増えます。独立したもう一本へ毎分30匹を分散できれば、この単純な条件では待ち行列は増えません。ここでも数字は仮定です。現実には、分岐や合流そのものが新たな制約になる場合があります。

自然環境で撮影されたアリ。種や環境による違いを考えるための参考写真。
アリの交通の仕組みは、種や通路の条件によって異なります。ブラジルで撮影された参考写真。Photo: Vlad Tchompalov / Unsplash

人間の交通へ、そのまま応用できる?

アリの研究からは、速さだけを競うより、通路全体の処理能力や周囲との調整を見る、という発想を得られます。たとえば輸送システムを考える際には、「入口から入れる数」「途中で失われる時間」「別経路の余裕」を分けると、改善すべき場所を探しやすくなります。これは本記事での工学的な考察です。

もっとも、道路では車体の大きさ、制動距離、安全、行き先の違いを無視できません。アリが近距離で行う動きを車でまねればよい、という結論にはなりません。必要なのは動きの見た目をコピーすることより、どの情報で、何を調節すると、どんな条件で流れが安定するかを調べることです。

行列を見つけたら、三つの量を観察してみよう

アリの道を妨げずに眺められる場所なら、一か所を決めて通過する数を数えてみてください。次に、同じくらいの長さの区間に何匹いるか、歩く速さはどう違うかを見ます。時間帯や場所が違えば、密度と流量の関係も変わるかもしれません。観察した一場面だけで、その種全体の性質を決めつけないことも大切です。

アリの行列の不思議は、一匹の速さより、集団が流れを保つ仕組みにあります。「密度×速度=流量」という短い式を手がかりにすると、混んでいるのに流れる状態と、輸送量まで落ちる渋滞の違いが見えてきます。足元の小さな列は、集団を数で理解する入口にもなるのです。

生き物の仕組みに興味がある方は、マルハナバチのボール遊びや、タコの吸盤が触れて味を感じる仕組みもあわせてご覧ください。

参考文献

  1. Poissonnier, L.-A. et al. (2019). Experimental investigation of ant traffic under crowded conditions. eLife 8:e48945. DOI: 10.7554/eLife.48945.
  2. Chaudhuri, D. & Nagar, A. (2015). Absence of jamming in ant trails: Feedback control of self-propulsion and noise. Physical Review E 91:012706. DOI: 10.1103/PhysRevE.91.012706.
  3. Dussutour, A. et al. (2004). Optimal traffic organization in ants under crowded conditions. Nature 428:70–73. DOI: 10.1038/nature02345.

写真はすべて参考写真で、引用論文の実験写真ではありません。アイキャッチ:Photo by Jithin Vijayamohanan / Unsplash。数式の計算例と模式表は本記事の説明用であり、実測データではありません。

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