銀河の周囲に、青い光の輪が見える。その輪は、手前の銀河の外縁ではなく、はるか後ろにある別の銀河の像かもしれません。間にある質量が光の経路を変え、背景の天体を引き伸ばしているのです。
これが重力レンズです。光源、レンズ、観測者の配置がそろうと、アインシュタインリングと呼ばれる輪状の像ができます。まず写真の「天体」と「像」を数え分け、その後で角度と質量の計算を考えましょう。
重力レンズで、天体そのものが輪になるわけではない
手前の質量が、背景の光を曲げる
一般相対性理論では、質量やエネルギーが時空の幾何に関わり、光の経路もその影響を受けます。銀河や銀河団が光源との間にあると、光は平らな時空を直進した場合とは違う経路で届きます。
観測者は届いた光の方向から、天体の位置を推定します。そのため、背景の見かけの位置や形が変わり、一つの天体が複数の像になる場合もあります。ガラスのレンズになぞらえた名前ですが、銀河の中に透明なガラスがあるわけではありません。
光点が四つあっても、光源が四つとは限らない
同じ背景天体からの光が、異なる経路を通って届くことがあります。そのとき、写真に見える光点の数と、光源そのものの数は一致しません。像の位置、色、スペクトル、時間変化を照合し、同じ天体の複数像かどうかを調べます。

したがって、美しい写真を見たときの最初の手順は、どの光が手前の天体から来て、どの光が背景から来たかを分けることです。重力レンズの像は、背景の天体が実際に輪の形へ変形した証拠ではありません。
光は、どれくらい曲がる?
弱い重力場で使う近似式
球対称な質量の十分外側、または点に集まった質量を通る光を考えます。重力が弱く、曲がりが小さい場合、偏向角は次のように近似できます。
| 記号/Symbol | 意味/Meaning | 単位・条件/Unit, condition |
|---|---|---|
| \(\hat\alpha\) | 光の偏向角/Deflection angle | rad、弱い重力場・小さな偏向 |
| \(G,M\) | 重力定数、レンズ質量/Gravitational constant, lens mass | 6.674×10⁻¹¹ m³ kg⁻¹ s⁻²、kg |
| \(b,c\) | 衝突径数、光速/Impact parameter, light speed | m、m/s。bは無偏向の経路と中心との距離 |
質量が大きいほど曲がりやすく、中心から遠くを通るほど曲がりにくいことが読み取れます。bは、観測者から光源までの距離ではありません。また、ブラックホールのすぐ近くのような強い重力場へ、この近似をそのまま当てはめることはできません。
太陽の縁では、約1.75秒角
太陽の質量を1.989×10³⁰ kg、太陽の縁をかすめる光の衝突径数を6.96×10⁸ mとします。まずラジアンで角度を求め、その後に秒角へ直します。
1ラジアンは約206,265秒角です。ここで秒角は時間の秒ではなく、1度の3,600分の1という角度です。1919年の皆既日食観測は、太陽の近くの恒星の位置のずれを調べた歴史的な試みでした。上の値は近似式による理論値で、当時の観測が誤差なく一致したという意味ではありません。
アインシュタインリングは、配置と対称性で生まれる
レンズのほぼ真後ろに、光源がある場合
光源がレンズのほぼ真後ろにあり、質量分布も十分に対称なら、光がレンズの周囲から届き、輪に近い像になります。少し位置がずれたり、質量が対称でなかったりすると、弧や複数像になります。すべての重力レンズが完全な円を描くわけではありません。

透明な球のたとえは、一つの背景が変形して見えるという入口には便利です。ただし、ガラスでの屈折と、時空の幾何による重力レンズは違う仕組みです。このたとえを、重力レンズそのものの再現と混同しないようにしましょう。
リングの角半径を表す式
点質量レンズと、曲がりを一つの面で扱う薄いレンズの近似では、アインシュタイン角半径は次の式になります。角度であり、物理的な半径のメートル数とは区別します。
| 記号/Symbol | 意味/Meaning | 単位・条件/Unit, condition |
|---|---|---|
| \(\theta_E\) | アインシュタイン角半径/Einstein angular radius | rad、直径ではなく半径 |
| \(D_L,D_S,D_{LS}\) | 観測者–レンズ、観測者–光源、レンズ–光源の角径距離/Angular diameter distances | m、三つを同じ定義・単位で扱う |
| \(M\) | 点質量として扱う質量/Point lens mass | kg、理想化した模型 |
角径距離は、天体の横幅と、空に見える角度の対応に使う距離です。膨張する宇宙の遠い天体について、一般にDLS=DS−DLとはなりません。赤方偏移と宇宙の模型を使い、それぞれの距離を定義に沿って求めます。
また、銀河の質量は一点にまとまっていません。軸対称な模型なら、リング内に投影された質量が対応する関係を使います。銀河の全質量を、無条件に上のMへ入れてよいわけではありません。
仮想のレンズで、約0.64秒角を計算する
距離はそれぞれ、計算の入力として与える
太陽の1,000億倍の点質量を仮定し、角径距離をDL=1 Gpc、DS=2 Gpc、DLS=1 Gpcと、それぞれの入力として与えます。これは式の練習用の条件で、特定の天体の観測値や、宇宙模型の赤方偏移の組を再現したものではありません。
1 Gpcは約3.086×10²⁵ m、太陽質量は約1.989×10³⁰ kgです。式を二つに分けると、単位も確認しやすくなります。
一方は長さ、もう一方は長さの逆数です。掛け合わせると単位が消え、その平方根から角度を求められます。距離をpcとmで混ぜたまま計算すると、この確認が崩れます。
この値は半径なので、直径は約1.28秒角です。また、距離の組を同じにしたまま質量を4倍にすれば、角半径は2倍になります。式に平方根があるため、質量との関係は単純な比例ではありません。
一つの輪だけで、全質量分布は復元できない
輪の大きさを測れば、距離と模型の条件のもとで、光を曲げる質量を制約できます。しかし、一つの角半径だけで、三次元の質量分布の全情報が分かるわけではありません。異なる模型が似た像を作る場合もあり、追加の観測が必要です。
観測例は、理想的な円だけではない
ユークリッドが捉えたNGC 6505の輪
ESAは2025年2月、宇宙望遠鏡ユークリッドが銀河NGC 6505の周囲に明瞭なアインシュタインリングを見つけたと発表しました。手前の銀河が、さらに遠い背景銀河の光を曲げています。
以前から知られる銀河でも、観測の感度や解像度が変わると、見えていなかった構造が分かることがあります。ただし、輪には適した配置が必要です。この発見を、すべての銀河が同じ輪を持つという意味へ広げることはできません。
複数像と、弱い変形にも別の情報がある
アインシュタイン・クロスのように、背景天体が複数の点状の像になる例もあります。銀河団では、複数の質量が複雑な弧や像を作ります。像の位置や形を一緒に再現できる分布を探すことで、質量を推定します。
一方、多くの背景銀河の形に、ごく小さな偏りが生じる場合もあります。多数の銀河を統計的に調べる弱い重力レンズは、広い範囲の質量分布を調べる方法です。一つの明瞭な輪の解析とは、観測や推定の組み立てが異なります。

自然のレンズから分かることと、残る限界
暗黒物質そのものの写真ではない
重力レンズは、明るく光る星だけでなく、重力を生む質量に反応します。星やガスの観測と合わせれば、光で十分に見えない質量の分布を調べる手掛かりになります。ただし、暗黒物質の粒子そのものを撮影した画像ではありません。
時間差を使う研究には、時間を追う観測が必要
変光する背景天体の複数像では、同じ増光が別の時刻に現れる場合があります。光の経路や重力による時間の違いが関わるからです。この時間差とレンズの質量模型、距離の情報を組み合わせ、宇宙膨張に関わる量を調べます。輪の形だけで膨張率が直接読めるわけではありません。
拡大されても、装置の限界は残る
背景天体が引き伸ばされ、観測しやすくなる場合があります。しかし、各部分の倍率が同じとは限りません。元の姿を復元する計算が必要で、望遠鏡の解像度、雑音、手前の銀河の光などの影響も残ります。
また、幾何光学の近似では、重力による曲がりは基本的に光の波長に依存しません。それでも弧が青く見えるのは、背景天体が放つ光、観測帯、塵、色の割り当てなどが関わるためです。像の色と、光の曲がる法則を同じものだと考えないことが大切です。
太陽を重力レンズとして使う探査構想も研究されていますが、遠方への航行や位置制御など多くの課題があります。完成した通常の望遠鏡を、そのまま置き換える技術というわけではありません。
まとめ
重力レンズは、手前の質量が背景の光の経路を変え、位置のずれ、弧、輪、複数像を作る現象です。式では近似の範囲、角径距離、半径と直径を確かめます。観測では天体と像を分け、写真だけで全質量が一意に分かると考えないことが大切です。
出典・関連記事
サムネイルと本文画像はすべて新しく用意したAI生成イメージです。数式と数値例は原理を説明するためのもので、画像から得た測定値ではありません。



コメント