星は、周りのガスを集めて大きくなります。ところが、生まれたての星を観測すると、材料を吸い込む一方で、細い流れを宇宙へ噴き出していることがあります。この流れが原始星のジェットです。「集めたいのに、なぜ捨てるの?」という不思議な姿は、星の誕生を理解する手掛かりになります。
NASAは2026年10月20日、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた星形成領域「NGC 7129」を紹介しました。画像の初公開は10月6日、観測は2025年12月17日です。10月20日に新しく撮影された画像という意味ではありません。本記事では、この画像を入口に、原始星のジェット、赤外線画像の色、そして見た目から分かることと分からないことを解説します。[1]
NGC 7129は、星が生まれている場所
NGC 7129は、ケフェウス座の方向、地球から約3300光年にある星形成領域です。星形成領域とは、ガスやちりが集まり、若い星が育っている場所のこと。今回の画像はウェッブの近赤外線カメラ「NIRCam」で得たデータを組み合わせています。画像の横幅は約5.7光年に相当します。[2]

ここで「星が生まれる瞬間を撮影した」と考えると、少し誤解が生じます。画像は、すでに進んでいる星形成の一場面です。また、明るい点がすべて同じ段階の星とも限りません。周囲のガスの形と合わせて読むことで、一枚の画像から、異なる状態の天体が同じ領域にある様子を調べられます。
原始星のジェットは、何が噴き出している?
原始星とは、周囲から物質を取り込んでいる若い天体です。周囲のガスは、星へ向かって落ち込む過程で円盤を作ります。この「降着円盤」は、物質が中心へ供給される重要な場所です。円盤に含まれる電離した物質と磁場の相互作用によって、一部の物質が極方向へ導かれ、ジェットとして流れ出します。[3]
噴き出しているのは、光だけではなく物質です。レーザーのように細く見えることがありますが、実際にはガスの流れと、周囲との衝突で光る部分を観測しています。ジェットが出る場所、流れる経路、明るく光る場所は、区別して考える必要があります。

たとえるなら、材料の搬入と搬出が同じ現場で起きている状態です。ただし、星が意思を持って不要物を選別しているわけではありません。重力、回転、磁場、ガスの運動が組み合わさった結果として、流入と流出が同時に起こります。「吸い込むか、噴き出すか」の二者択一で考えないことが、仕組みを理解する第一歩です。
なぜジェットの先や周りが光るのか
速いガスが周囲のガスや先に放出された流れに追いつくと、衝撃波が生まれます。その衝撃でガスが加熱され、原子や分子が励起されて光を放ちます。若い星のジェットなどによってできる、このような明るい領域は「ハービッグ・ハロー天体(HH天体)」と呼ばれます。画像で見える節や弧は、ガスの流れが周囲へ及ぼす作用を調べる手掛かりです。[4]
重要なのは、流れそのものの速さと、衝突の激しさを決める相対速度が違うことです。例えば、同じ方向へ毎秒100kmで進む流れが、毎秒90kmで進むガスに追いつくなら、単純な一次元の例では速度差は毎秒10kmです。反対向きの流れなら状況は変わります。絶対的な速さの数字だけから、分子がどれほど壊れるかを決めることはできません。

2023年に紹介されたHH 211では、内側の流出構造の速度は毎秒約80〜100kmと報告されています。一方、衝突するガスとの速度差はそれより小さく、流出が主に分子からなるという解釈につながりました。この値はHH 211のもので、今回のNGC 7129のジェット速度を示す数値ではありません。[4]
原始星のジェットは、どのくらい速い?計算してみる
毎秒100kmは、身近な速さの感覚を超えています。ここでは大きさをつかむため、毎秒100kmの一定速度を仮定し、1日で進む距離を計算します。これは上の比較例に着想を得た算数であり、個別天体の距離や年齢を測定する計算ではありません。
\[d=vt\]
| 記号 / Symbol | 意味 / Meaning | 単位・条件 / Unit and condition |
|---|---|---|
| d | 進む距離 / Distance | km |
| v | 速度 / Speed | 100 km/sで一定と仮定 |
| t | 経過時間 / Elapsed time | s。1日=86,400 s |
1日は24×60×60=86,400秒なので、100 km/s×86,400 s=8,640,000km、つまり864万kmです。単位のsが打ち消されてkmになることも確認できます。毎秒80kmなら、同じ計算で1日691万2000kmとなります。
それほど速くても、光の速さとは大きな隔たりがあります。光速を約30万km/sとすると、100÷300,000≒0.000333、約0.033%です。「高速のジェット」という言葉だけから、光速に近い流れだと想像しないようにしましょう。原始星のジェットと、別種の天体で語られるジェットでは、条件も速度も異なります。
また、写真に写った長さをこの速度で割れば、すぐに正確な年齢が出るわけでもありません。流れがこちらへ傾いていれば、画像上の長さは実際より短くなります。途中で減速した可能性や、複数回に分かれて放出された可能性も考えなければなりません。簡単な式は入口として有用ですが、測定には条件の確認が必要です。
金色と赤色は「肉眼で見た色」ではない
NGC 7129の画像では、金色側に熱い原子状水素、赤色側に原始星の流出で衝撃を受ける分子状水素が見られます。ただし、これは赤外線データに色を割り当てた画像です。「宇宙に行けば、そのまま金色と赤色に見える」という意味ではありません。[2]
| 画像の要素 / Feature | 読み取る手掛かり / Clue | 注意点 / Caution |
|---|---|---|
| 金色の領域 / Golden region | 熱い原子状水素を含む領域 | 肉眼の色や単独の温度計ではない |
| 赤い塊状の構造 / Red clumps | 分子ガスと原始星の流出の相互作用 | 重なった複数の流れがある |
| 星から延びる鋭い光条 / Diffraction spikes | 望遠鏡の光学系による回折パターン | その形のガスが出ている証拠ではない |
色を付けていると聞くと、価値のない加工のように感じるかもしれません。しかし、人間の目が感知できない波長の違いを、見比べられる形へ変換することには意味があります。大切なのは、どの波長にどの色を対応させたかが明らかなことです。色の美しさと、色が表す情報を分けて読むと、画像はずっと面白くなります。
画像の変換という点では、わし星雲の画像を音へ変える「音声化」の記事も参考になります。観測した信号と、人間が理解するための表現を区別する考え方は共通しています。
同じ「星のジェット」でも、姿はさまざま

2026年1月にNASAが紹介したHH 80/81では、流出の一部について毎秒1000kmを超える速度が報告されています。HH 211の約80〜100km/sと比べても大きな違いです。ただし、観測する構造や天体の条件が違うため、数字だけで天体の「強さ」を順位付けすることはできません。[3]
比較するときは、同じ天体の時間変化なのか、違う天体を並べているのかを最初に確かめましょう。本記事の3枚の観測画像も、NGC 7129、HH 211、HH 80/81という別々の対象です。写真の色や形が違うのは、対象の条件に加え、望遠鏡、波長、表示方法にも関係します。見た目の違いをすべて天体そのものの違いへ結び付けないことが大切です。
よくある疑問
ジェットは星の爆発ですか?
ここで扱っているのは、成長中の天体から続く物質の流出です。星が一度に壊れる爆発と同じ現象ではありません。写真の炎のような形だけでは、何が起きているかは判断できません。
地球から肉眼で同じように見えますか?
掲載した画像は、宇宙望遠鏡の観測データから作られたものです。特にウェッブは赤外線を観測するため、肉眼の見え方を再現した写真として読むことはできません。
画像だけでジェットの向きや速度は分かりますか?
投影された形には手掛かりがありますが、一枚のカラー画像だけで三次元の速度を確定することはできません。時間を置いた位置の比較や、光の波長の変化など、追加の観測情報が必要です。
まとめ
原始星のジェットは、星が育つ過程で起きるガスの流出です。流れが周囲とぶつかって光るため、星そのものがちりに隠れていても、その活動をたどる手掛かりになります。NGC 7129の美しい色を眺めるときは、「何の波長を見ているか」「光っているのは星かガスか」「画像から測れた量は何か」を意識してみてください。きれいな宇宙写真が、物質の動きを読む科学の資料へと変わって見えてきます。
出典・関連記事
- [1] NASA:2026年10月20日の画像紹介。画像の初公開日とは区別。
- [2] NASA:NGC 7129画像・観測日・波長・色の割り当て、および2026年10月6日の公式解説。
- [3] NASA:HH 80/81とジェットの仕組み(2026年1月12日)。
- [4] NASA:HH 211の観測結果(2023年9月14日)。
- 関連記事:わし星雲の画像が音に?NASAの音声化と「星の声」の違い
観測画像は各クレジットを付して科学解説目的で掲載。サムネイルはAI生成の概念イメージで、実際の観測画像ではありません。独自計算・模式図:Xypha編集室。確認日:2026年10月21日。



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