宇宙に「猫の頭」?ハッブルとウェッブの3画像で分かる、星と塵の関係

ハッブルとウェッブの3波長で見た猫の頭星雲の比較 宇宙

宇宙の雲の中に、こちらに背を向けて座る猫のような姿が浮かんでいます。ところが、同じ場所を別の光で見ると、黒い輪郭の向こうに星々が現れ、雲そのものも違う表情を見せます。

2026年10月29日、ESAが公開したのは、りゅうこつ座大星雲の一角にある「猫の頭星雲(Cat’s Head Nebula)」の観測画像です。地球から約7500光年の場所を、ハッブル宇宙望遠鏡とジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が異なる波長で捉えました。[1]

今回の見どころは、珍しい形だけではありません。光の種類を変えると、宇宙の何が見えるようになるのか。3枚の観測画像を手掛かりに、塵と星の関係を読み解きます。

まず押さえたい、今回の画像の位置づけ

「猫の頭」は、ガスと塵の形に付けられた愛称です。猫に似た輪郭が、独立した種類の天体を意味するわけではありません。また、今回の公開を「この日に星雲が誕生した」「星が生まれる瞬間を動画で撮影した」と受け取ることもできません。公表日、観測日、天体で起きた出来事の時刻は、それぞれ違います。

同様に、可視光、近赤外線、中間赤外線の画像は、時間順に並べた成長記録ではありません。同じ領域について、観測に使う光の範囲を変えた比較です。写真の違いを、短期間に雲が変形した証拠として読むと、意味を取り違えてしまいます。

画像今回の装置注目するもの
可視光ハッブル/WFC3暗い塵の柱、周囲の発光
近赤外線ウェッブ/NIRCam塵の向こうに見える星、柱の細部
中間赤外線ウェッブ/MIRI塵や分子の放射が示す細い構造

これは望遠鏡全体の能力を二分した表ではなく、今回公開された画像の比較表です。ハッブルにも近赤外線を観測する能力があります。「ハッブルは可視光だけ、ウェッブは赤外線だけ」と単純化しすぎないようにしましょう。[6]

可視光:黒い部分にも、物質がある

ハッブルの可視光画像。暗い柱の輪郭と、周囲の明るいガスに注目
ハッブルの可視光画像。暗い柱の輪郭と、周囲の明るいガスに注目。Credit: NASA, ESA, STScI. Image Processing: J. Depasquale (STScI).(CC BY 4.0)。

ハッブルの画像では、細長い柱が暗く浮かび上がります。ここで大切なのは、暗い場所を、何もない空間と決めつけないことです。背後から来る光が途中の物質で遮られると、物質のある場所が影として見えます。

身近な写真でも、逆光の人物は黒いシルエットになります。それだけで服の模様や顔の表情までは分かりませんが、輪郭は読み取れます。星雲の写真でも、明るさの低さには「光源が少ない」「光が届きにくい」など、複数の理由が考えられます。黒いことと、空であることは同じではありません。

この画像では、柱の右側に明るい縁が見えます。公式解説は、周囲の大質量星から来る紫外線で照らされ、電離したガスの縁と整合的だとしています。また、猫の「目」に当たる赤い点は、塵に埋もれた若い星の可能性があります。どちらも、明るい部分を見つけるだけでなく、その解釈の確かさまで読むことが大切です。[2]

近赤外線:星が増えたように見える理由

ウェッブのNIRCam画像。可視光画像と星の見え方を比べる
ウェッブのNIRCam画像。可視光画像と星の見え方を比べる。Credit: NASA, ESA, CSA, STScI. Image Processing: J. Depasquale (STScI)(CC BY 4.0)。

近赤外線の画像に切り替えると、たくさんの星が目に入ります。可視光写真との違いは、「その間に星が急増した」という意味ではありません。塵による光の遮られ方や、天体から届く光の量が、波長によって違うためです。

星間の塵は、紫外線や可視光を吸収し、赤外線としてエネルギーを放出します。また、赤外線の一部は可視光より塵の影響を受けにくく、雲の向こうを調べる手掛かりになります。[5]

ただし、赤外線ならどんな雲でも完全に透けるわけではありません。塵の量や性質、使う波長によって、見通せる程度は変わります。この星雲でも、近赤外線でなお隠れた星があると解説されています。写真の中に星が写っていないことは、その場所に星が絶対にないという証明にはならないのです。[3]

画像を見比べるときは、「どちらが鮮明か」だけで評価せず、「どちらが何に敏感か」と考えてみてください。輪郭を読みやすい画像と、奥の星を見つけやすい画像は、役割が違います。片方を捨ててもう片方に置き換えるより、両方を組み合わせる方が、構造を理解しやすくなります。

中間赤外線:塵も、光を出す観測対象になる

ウェッブのMIRI画像。柱の左側に広がる細い筋にも注目
ウェッブのMIRI画像。柱の左側に広がる細い筋にも注目。Credit: NASA, ESA, CSA, STScI. Image Processing: J. Depasquale (STScI).(CC BY 4.0)。

中間赤外線では、温められた塵や、星の光で励起された炭素を含む分子からの放射が、複雑な構造を描き出します。柱の左側にある細い筋や小さな塊も、見比べるポイントです。[4]

ここには、観測の面白い逆転があります。可視光では星の光を遮るものとして目立った塵が、別の波長では、自分から出す放射によって調べられます。「邪魔なものを取り除いて星を見る」という一方向の話だけではありません。星と塵の両方が研究対象です。

ただし、画像の赤い部分をすべて同じ温度の物質と考えることはできません。画面上の色は、複数の波長帯のデータを人間に見える色へ対応させて作られています。放射の仕組みや観測フィルターを知らずに、色だけから温度や成分を一つに決めることは難しいのです。

数式で分かる「光の違い」

可視光と赤外線は、どちらも電磁波です。違いを表す基本的な量が波長です。波の山と次の山の間隔に当たり、通常はギリシャ文字の λ(ラムダ)で表します。波長と振動数の関係は、真空中では次の式で書けます。

c = λν

ν(ニュー)は振動数で、1秒間に何回振動するかを表します。真空中の光速 c は一定なので、波長が長い光ほど振動数は低くなります。さらに、光子1個のエネルギー E は、プランク定数 h を使って E = hν と表せます。この2つを合わせると、次の形になります。

E = hc / λ
記号意味単位
c真空中の光速m/s
λ波長m
ν振動数Hz
hプランク定数J·s
E光子1個のエネルギーJ

例えば、波長0.5マイクロメートルの光と、5マイクロメートルの光を比べます。後者の波長は10倍なので、光子1個のエネルギーは10分の1です。これは関係を理解するための計算例で、今回の画像全体をその2波長だけで説明するものではありません。

また、「光子1個のエネルギーが低い」ことは、「画像が暗い」「観測の価値が低い」ことを意味しません。届く光子の数や、観測対象がどの波長で強く放射するかも関係します。光子の性質と、写真全体の明るさを分けて考えると、赤外線観測の意味がつかみやすくなります。

星は、雲を材料に生まれ、雲に働き掛ける

星の誕生は、広がったガスが重力によって集まることから始まります。密度の高い部分が収縮し、中心に原始星が育ちます。十分に温度が高くなって核融合が続くようになると、星は長い安定した段階へ入ります。[7]

雲がすべて同じように星になるわけではありません。集まろうとする重力と、ガスを支える圧力などの働きが競い合います。材料の分布も一様ではなく、密度の高い部分と薄い部分があります。「星雲があるから、そこにある全物質がやがて星になる」とは限りません。

さらに、生まれた星は周囲へ光や風を送り、次の星が育つ環境に影響します。ガスを散らして材料を減らす場合もあれば、周囲を圧縮して新たな星形成のきっかけになる場合もあります。こうした作用は、一般に恒星フィードバックと呼ばれます。[8]

つまり、星雲は完成品を並べた展示室のようなものではありません。材料が集まる過程と、周囲から働き掛けられる過程が同居する場所です。ただし、個々の構造でどの作用がどれだけ効いているかは、見た目だけで決まるものではありません。

自分で見比べるための3つの問い

1.同じ輪郭を追えているか。まず猫の頭、胴体、下へ伸びる部分を見つけましょう。画像ごとに画角や向きが異なるため、画面の同じ座標をそのまま同じ天体の位置と考えないことが大切です。

2.変わったのは星か、背景か、雲か。星の数に目を奪われたら、次は雲の縁に注目します。背景の色が大きく違っていても、同じ柱の形をたどれることがあります。「全体が違う」とまとめず、比較する対象を一つずつ決めると違いが明確になります。

3.写ったものと、解釈を分けられるか。明るい点が写っていることと、それが若い星だと確定したことは別です。線状の構造が重なって見えることと、その星に物理的につながっていることも別です。MIRI画像の明るい光源と細い筋について、公式解説も関係が確立していないとしています。[4]

この区別は、科学画像を見るときの有効な習慣です。「見えた」という観測事実、「こう考えると説明できる」という解釈、「さらに調べる必要がある」という課題。それぞれを分けると、写真から受け取れる情報が増えます。

宇宙の写真は、問いを変える入り口になる

猫の形を探していた目で、今度は塵の輪郭を追い、次に星を探してみてください。同じ画像でも、問いを一つ変えると、目に入るものが変わります。

可視光で見える姿だけが宇宙の全貌ではありません。別の波長には、別の情報が含まれています。今回の3つの眺めは、宇宙を理解するために望遠鏡を組み合わせる理由を、私たちにも実感させてくれます。

参考資料・画像の出典

観測に関する記述は2026年11月2日時点の公式公開資料に基づきます。本文画像は実際の観測データをもとにした公開画像で、生成AIによる想像図ではありません。赤外線画像の色は、人間に見える色へ対応させた表現です。

  1. ESA/Hubble:Ghostly Cat’s Head Nebula lurks within sight of Hubble and Webb(2026年10月29日)
  2. ESA/Hubble:WFC3画像と解説
  3. ESA/Hubble:NIRCam画像と解説
  4. ESA/Hubble:MIRI画像と解説
  5. NASA:Infrared Astronomy
  6. NASA:Wavelengths
  7. NASA:Stars
  8. NASA:Webb’s Star Formation Discoveries

サムネイル:NASA & ESA/CC BY 4.0。本文画像のクレジットは各画像直下に記載。

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